2025/2/22

ベイトを学ぶには、良いラウンド

ベイトを学ぶには、良いラウンド

はじめに

どうも、えだまめです。

今回はVCT Americas Kickoff DAY 5から1ラウンドを紹介します。

ヘイトとベイトの説明と最終的にJettがラークという形で相手を挟むことに成功しますが、

このはさみの状況がプラント前にもかかわらず相手をセーブの判断にさせた理由について解説していこうと思います。

英語からベイトとヘイトについて説明しましたが、内容をだれかに校閲してもらったわけではないのでご承知おきください。

CONTENTS

紹介したいラウンド

おおまかな流れ

1 MIDコントロールをみせる

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2 OmenがULTをつかいヘイトを集める

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3 Jettがそのヘイトにあわせて薄くなるであろう(予想)でCTへと抜けていく

MIDコンをみせているのでSovaがMID抜けを警戒していますMIDコンをみせているのでSovaがMID抜けを警戒しています

4 AメインでKAYOがULTをつかいAサイト側にヘイトを集める

Aにヘイトが向いたAにヘイトが向いた

5 味方にベイトしてもらったJettがきれいなラークをきめる

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6 KAYOがスパイクをまだもっているのでプラントをしていない状態ですが防衛側はあきらめてセーブをします

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数的優勢の4vs2という状況に加えて、防衛側がOPを持っているからセーブという選択肢は十分考えられますね。

でも、もっと大きな理由があるんです。

それは、JettがMIDを使って行ったはさみ込みのエントリーなんですよ。

このエントリーのおかげで、防衛側は広いエリアをリテイクしなければいけなくなってしまいました。

そうなると、防衛側は人数、武器、スキル、そして残り時間を考えて「リテイクは厳しいな」と判断せざるを得なくなります。

くわしくは後述します。

解説

この作戦をするべき時とは、印象をつかったフェイクをイメージ

まずはじめにMIDコントロールを見せましたが、

1ラウンド前でもMIDに同じスモークを使い

1ラウンド前の初手の動き1ラウンド前の初手の動き

同じようにMIDコントロールを行っていました。

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ですが、実際の解説したいラウンドではスキルとJett単体でのコントロールになります。

この配置の変化に相手が気付けるかどうかがフェイクをするときのポイントになります。

このフェイクというので大事なのは相手に今までどう見えていたのか。だと思います。

簡単な例で考えてみましょう。

たとえばLotusのBばさみはご存じな方も多いと思います。

AメインをとってBメインの味方がとれているのをみてAではなくBにセットするというやつです。

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このセットもいままでどういう印象だったのかというのが大事になります。

この例だと、

Aメインをとって「Aにセットをした」という印象やAメインをとって「ドアを開けてセットした」

という印象をつけていたから、メインをとった動きや、ドアを開けたという動きで相手がAサイト側につられる・配置が偏ると考えられるから

自分たちはBへのシフト。という動きが刺さるというわけです。

VODの作戦はいわば 「ヘイト基本知識」×「フェイク基本的考え」を組み合わせた作戦と言えます。

具体的にVODのヘイトについての解説に戻りますが、

解説ラウンドではMIDコントロールをした後にメイン側でKAYOULTをつかったことによりAメイン側にヘイトが集めています。

これが相手視点MIDフェイクをしているように見えたはずです。

(MIDにスキルを使ってきたのに敵がが見えない→AメインでULTをつかった状況を踏まえてフェイクと考えたと思います。)

なので初手にMIDを警戒していたSovaやAstraはAメインのアクションを見てフェイクと考えてA側へのローテをしたと考えられます。

Aにヘイトが向いたAにヘイトが向いた

Sovaのローテーション判断とその結果

Sovaは、MIDをATKが押さえているという状況と、DEFがMIDをコントロールできていない状況を考慮して、MID経由ではなくCT経由を選びました。これは、MIDにATKがいる可能性を意識した判断だったと思います。

でも実は、これはATKの思惑通りだったんです。CT経由だとローテーションに時間がかかってしまうため、ATKのAラッシュに対して味方のカバーが間に合わなくなってしまいます。つまり、MIDを警戒してCT経由を選んだ時点で、かなりATKに有利な展開になっていたわけですね。

ドローン破壊とKAYOラッシュの戦術比較

ここで面白い比較をしてみましょう。よくある「ドローンを壊して味方の位置を隠す」という動きと、今回のような「KAYOラッシュでヘイトを集める」戦術の違いです。

ドローンを壊す動きは、正直かなりベタな戦術なので警戒されやすいんです。

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でもKAYOラッシュの場合、相手はMIDを警戒していても、結局サイトに寄らざるを得ない状況に追い込まれます。なぜなら、ラッシュに対応しないと即座に不利になってしまうからです。

特に味方がサイト内にいる場合は、すぐにカバーに行かないと厳しい状況になります。

このように、ラッシュを使うことで、JettがMIDからラークしやすい状況を作り出すことができるんです。これは相手の動きを誘い出す、とても計算された戦術だと言えますね。

ただし、この戦術が通用しないケースもあります。

例えば、相手がリテイク配置を取っている場合です。

サイトで守れないならリテイクに必要なエリアを最低限取っておこう!サイトで守れないならリテイクに必要なエリアを最低限取っておこう!

その場合、ラッシュに焦って対応する必要がないので、サイトにいる味方が不利な状況に陥りにくいんです。

なんならMIDにドローンやリコンで本当にいないかどうかを確認したりつぶしに行っても良いかもしれない。

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デュエリストのフェイクに対しても場合も同じような考え方ができます。

ATKのデュエリストのエントリーがフェイクかわからなくても、リテイクの態勢を整えて対応すればOKです。

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でも、味方がサイト内にいる場合は、フェイクだと分かっていてもカバーに行かざるを得ません。

いったんサイト中に味方がいるのであればまずはフェイクのサイトを先につぶしてからリテイクに回ろう。といった具合でしょうか。

今回のケースでは、サイト中で戦おうとしている味方に合わせなければならない状況が、ATKの狙い通りの展開を生み出したと言えるでしょう。

ポイント

ヘイトとベイトについて

ヘイトとベイトは似たような単語ですが意味は違います。

具体的に表にまとめると

意味
ヘイト(する)相手の注目を集めるだけの行為
ベイト(する)自分がおとりとなり味方にキルをとってもらう

ベイトというのは自分にヘイトを集めて味方にキルをとってもらう動きまでを含めた単語です。

ここで正しい意味合いを伝えるとすると、

味方に対して

「ベイトするね」と伝えた場合、おとりとなるのは言った人になります。

味方にベイトするねというと、まるで(きみを)おとりに(自分が)キルをとる

というふうにきこえるのではないでしょうか。

意味を理解している人は次の用語解説は飛ばして良いです(長いから)。

英語から解説

ゲーム用語「ヘイト」と「アグロ」の関係

ゲーム用語の「ヘイト」は英語の"hate"(嫌悪、敵対心)から来ているんですが、実は英語のゲーム用語では "I took hate" よりも "I took aggro" という言い方のほうが一般的なんです。

ヘイトの意味としてアグロという単語のほうが英語的には自然らしいです。

この "aggro" って何かというと、"aggravated"(イライラさせられた)という形容詞を短くした言葉なんですよ。だから "aggro-free[複合形容詞] day" というのは「イライラのない一日」という意味になります。


ちなみに、aggroはイギリス英語のスラングとして aggression(攻撃性)が語源という説もある。


日本語と英語の表現の違い

さて、ここで面白いポイントがあります。「ベイト」という言葉も英語から考えると、誰が「ヘイトを買う側」なのかがはっきりわかるんです。

日本語は「空気を読む文化」(ハイコンテクスト文化)が強いので、誰が何をするのかを文脈で理解できるときは省略することが多いんです。文脈を理解できるときというのがあいまいでそれは読む人の読解力にゆだねられているのです。そのため、時々誤解が生まれてしまうことがあります。

一方、英語では「誰が誰に何をする」というのをきちんと明確に示すのが基本なんです。もちろん、英語にも文脈から省略はありますよ。

例えば "While (I was) walking in the park, I saw a cat." という文では "I was" を省略できます。

でも、これにもちゃんとルールがあって、従属節と主節(前後の文)で主語が同じで、主節がbe動詞の時だけ。だからルールに従えば意味が混乱することはないんです。

でも日本語の場合は、省略するときの明確なルールがなくて、どちらかというと「空気を読む」という曖昧な基準になってしまいます。これが時々、表現を「濁す」ことにつながってしまうんです。

具体例:ハイコンテクスト文化の文化的背景 1円スマホの表現

例えば、「1円スマホ」というのを考えてみましょう。月々の割引で実質1円になるシステムなので、途中解約が実質的にできないようになっているんです。機種代金が3000円で月々割引が2999円だから「実質月1円です!」って言われても、24ヶ月の契約期間の途中で解約すると残りの機種代金を払わないといけないんです。

つまり、ある意味で契約期間に縛られているわけです。「1円」という魅力的な数字を前面に出して、契約期間の縛りという本質的な部分をぼかしているように見えますよね。

でも、これが悪いというわけではないんです。携帯キャリアって頻繁に変えるものじゃないですし、2年間使い続ける人にとっては本当にお得なわけですから、僕自身は「実質月1円」という言葉は好きです。

話を戻すと、日本語のこういった特徴が、時々「なんとなく分かった気になって実は勘違いしていた」とか「相手の意図を読み違えていた」という状況を生むことがあるんです。

(ただし、ビジネス文書など正式な書面では日本語でもきちんと明確に書くのがルールであり、マナーであり、自分のためでもあります)

ベイトの本来の意味 「味方をベイトする」という日本語は誤り

英語の "bait" は本来 "I'll bait (the enemy for you)" という形で使う他動詞なんです。

つまり、「私(I)が敵(enemy)を引き付けて(bait)、あなた(you)がキルを取れるようにする」という意味なんです。

「ベイトする」と聞いた味方が「自分がおとりにされる」と解釈してしまうことがあるんじゃないかと思います。

少なくとも自分は「ベイトするね」と味方言われたら自分が釣らないといけないのかと誤解したことがあります。

ここで正しておきましょう

「ベイトするね」といわれたら「いった人がヘイトを買って味方にキルをとってもらう」という意味だということです。

ではなぜベイトするという日本語で誤解が生まれるのか。

それは

①ゲームスラングとして "I'll bait" という短い形が使われるようになって、これが「する側」と「される側」の区別を曖昧にする原因になったから。

そしてもう1つは

②baitは「おびき寄せる」という動詞 だから、目的語(おびき寄せられる対象)は 敵(Enemy)になるべき

②について

そうなんです、おびき寄せる対象が目的語に来なければいけないということなのです。

目的語が良くわからない人向けに

目的語とは動詞(動作を表す単語)の対象を表す単語です。英語だと(他)動詞の後ろにある単語が目的語です。

I play <u>the game</u>.

何をプレイするのかというと、ゲームですよね。だからgame がplayという動詞の対象になるというわけです。

ではbaitはどうなるのか

I bait the enemy.

私が何を引き付けるのか。それは敵(enemy)ですよね。だからenemyがbaitの動詞の対象になるというわけです。

もうおわかりですよね、

baitというのは引き付けるものが、目的語としてくるわけです。

日本語で言うと「○○を」という部分です。

なので「味方をベイトする」という日本語だと、味方を引き付けるという意味になり、誤りだということです。

英語で書くと

I bait my teammate. ということになりベイトの対象がチームメイトになります

チームメイトを引き付ける?

意味が分からないですよね。

英語の意味と日本語の目的語関係が違うから

どっちがヘイトを買う・買われるなのかがごっちゃになっているというわけです。

I’ll bait the anemy とまではっきりと言ってくれたらよかったものを

I’ll bait という短縮形が生まれたがゆえに日本で使われるときに目的語が消えたことでごっちゃに余計になったというわけですね。しらんけど。

まとめとして、

日本語でも「ベイトするね」と言ったら、「自分が味方のためにおとりになる」という意味です。

味方をベイトする、という日本語は誤り!というのが自分の結論です。

味方に(敵を)ベイトしてもらう(味方が[敵を]ベイトする)、が正しい日本語です

ここだけ見ればわかる!ベイトの意味

ダイブデュエリストのエントリーから解説

ビジュアルで簡単に説明します。

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Jettがベイトして味方がキルをとるJettがベイトして味方がキルをとる

Jettのエントリーはベイト、囮によって(ヘイトを買って)味方がキルをとれるようにする動き=ベイトというわけです。

相手がプラント前にセーブした理由を挟みエントリーから考える

はさみエントリーって、どんな時に使うのがベストなんでしょうか?

私の経験から、はさみエントリーが特に効果的なケースを2つご紹介します。

1つ目は、相手のサイトにセンチネルがいて、メインルートからの単純なエントリーが難しそうな時です。この場合、はさみエントリーを使えば、少なくとも片方のルートからは攻めやすくなりますよね。

論より証拠。みたほうがはやいですね。

メインから行くとセンチネルのトラップで足が止まる。ならショート(アーケード側)からいけばいいじゃんというわけです。

センチネルのスキルはないところを付かれると弱いです。とくに配置もとまる前提の配置をとるのでふたりしかいないことの多いサイトです。

まあだからKAYOラッシュとかはセンチネルのサイトが狙われやすくて、だからそれを読んでいろいろ防衛側はアンチKAYOの対策をするわけですが。

2つ目は、相手チームがメインを確保しようとしてくる時です。この時、メイン側と別方向から挟み込むような動きができると、とても効果的です。

論より証拠。みたほうがはいですね。

Pearlを例に挙げましたが、ASCENTのAメイン・BINDのシャワーコントロールなどをみて

挟みに行くという動きをとります。これはマップ関係なく基本的な部分です。

相手の配置を見てメインコントロールということは、配置がメイン側に偏っている。

だから片方が進んであげてなおかつ挟もうという作戦です。

(もちろん、これを考えて防衛はブラフのラウンド、メインコントロールをしているように見せて実はショート側に人数を寄せておくという動きも必要になるわけなのですが。)

でも、はさみエントリーにはもう1つ重要なメリットがあるんです。

それは「エリアコントロール」という観点から見た利点です。

例は何でもよいので同じ画像を使いますが、

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はさみエントリーをすると、チームが2つのグループに分かれて攻めることになります。これは必然的に、より広いエリアをコントロールできるということを意味するんです。

広いエリアを取れるということは、防衛側にとってはリテイクしなければならないエリアが増えるということです。つまり、サイト以外の場所にもリソースを割かなければならなくなるわけですね。

忘れてはいけないのは防衛側の最終目標はエリアリテイクではなく爆弾の解除です。手前のエリアからサイト中のエリアまでリソースをすべて使い切りエリアをとれたとしても相手の遅延などに対してのスキルが残らない場合は単なる打ち合いになり勝ち筋を作りにくくなってしまいます。

今回の主題であるAbyssのVODの例で考えてみましょう。

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防衛側のチームメイトが削られた時点で、広いリテイクエリアに対してがんばってとれたとしてもリソースが足りなくなってしまいます。

そうなると、リテイクは難しいと判断せざるを得ません。

結果として、OPを温存したいという理由もありましたが、このエリアコントロールの問題も相手チームがセーブを選択した大きな理由の1つだったと考えられます。

さいごに

いかがだったでしょうか。

1つのラウンド解説をするだけなのに

余計なことまで解説していた気がします。

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次回もお願いします。

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